Edit your comment 蒼い時空 参道商店街の一角にある花屋。バブル期の需要が太古のことのようで、今は大量仕入れ大量消費は全くない。一時下野しても長期の政権であることは変わりなく、いったい奴らは何をしているのか。悪夢の・・・には笑っちまうぜ。政治の私物化、堪えぬ汚職。そもそも政治家はどこを向いて政治と俺たちの税金を使っているのかと、握るハサミに力が入ってしまう。政治なんてこんなもんだと思っている人間が許せないし、バカかと思う。議員事務所に飾られる花、値段を抑えて売る俺たちの努力を知っているのか知らないのか。もう、そういうことさえ目に入らない忖度議員なのだ。醜態と醜聞が絶えない政権を変える努力もしないで先祖代々の政治家に権利を投じているなら愚か者となじる権利は俺にはあると思う。 ちょ、ちょっと、銀二さん、それ今日お届けするシャカランダですよ! と、また力んで、切らなくてもいい枝を切り落としてしまった。 さっきから、何をブツブツ言ってんですか。あんたの言うことはまちがっちゃいないけどよ、花屋の店員とは思えないそのガタイで乱暴にハサミ使われちゃ怖すぎますよ、そろそろ行かないと遅れるよ。まったく! 軽トラにアジサイ、アガパンサス、クレマチス、瑠璃玉アザミ、ベニバナ、アーティチョーク、あやめ、菖蒲、オダマキ、そしてシャカランダ。俺が選んだ6月の花だ。まあな、こんな風貌の俺は花屋よりは魚河岸だよな。ルームミラーを覗き込んだ。 届け先の屋敷に来ると使用人に見送られる京友禅のご婦人。茶会だそうだ。その使用人に案内されて花を運び入れた。主人は会社役員で今夕は招待客なのだという。毎回俺が任せられて花木を選び花器は使用人とその都度選んだ。白磁の大きな皿がある。いつかはこれにと思うが、手を伸ばすと、そこで止まってしまうほど美しい。 使用人の厳しい視線が背に刺さる・・・気がする。いや、そうなのか? ストレッチパンツにポロシャツそしてポケットがいくつも付いたエプロンが定番。この家には全く似つかわしくないのは、使用人も気使いある服装だからだ。 (由緒?しらねーよそんなこたぁ) (俺みたいな下々がいないと欲しい花は生けてもらえないんだろ) 生意気で反骨な思考を覆い隠して、花器を選び終えた。 主人も奥様も客もいない屋敷。静かな時間が流れる。 エントランスといくつもの部屋と窓辺と廊下にコーディネートされた青の花。 立ち膝、正座、四つ這いに中腰、覗き込みをしながら整えていく。その後ろで使用人は作業を見守る。時に肩越しに接近し視線を同じくしようと密着して、頷く。 知的で品のいい色が小さな空間まで見事に演出されていますね。いいですね、と使用人。 使いきれない花の残りを束ねようとすると、使用人がその手を止めた。 きょうはご案内します。 屋敷の奥の廊下を進む。初めての部屋に案内された。障子を開くと縁側の奥に瓦の塀があり、こちらと挟むように低木と苔生す庭。これを見ろということだったのか。いや、そうではなかった。 白磁の大皿を手に一糸纏わぬ姿。乱れのない整髪、俺みたいな筋骨ではないが肩から腕への筋肉の波、突き出た乳首のある胸部とそこからつづく腹の溝がうっすら。滑らかに薄毛さえ見えない肌の、下肢の逞しさ、そそり立つ陰茎の先端の透明な光。しなやかにして、スーツを着こなす体がこうであったのか。俺はゆっくり息を吐いた。 あなたがそうであったように、私も同じことを思っていました。 お互いに隠せないことでしょう。さあ、あなたもお取りなさい。 静寂の部屋に茎を切る音が響く。 白磁の皿に蒼い時空が生まれる。 3410:グリーンサム ひとむかし前、新宿で、軽トラに花を積む男を見ました。 尻と太腿がパツパツの黒いズボンに茶のエプロンと白シャツの男でした。 髪が短くて逞しい清潔感ある男。信号が青になっても彼が消えるまで見ていました。 そして、 海雄さんの赤裸々な告白に、モゾモゾしてしまいます。 周りにわかってくれる人が欲しい、切ないくらいよく分かります。 でも、叶わないことばかりではないと、私は思います。 SECRET SendDelete