Edit your comment 遅い時刻に仕事が終わると、帰りに立ち寄る店がある。にぎやかな通りから一本路地に入ると少し喧騒からは隣り合うことがない。格子の引き戸を開いてくぐる暖簾の先に5席のカウンター。無口な親父が、その気配に「辰」が来たと阿吽の呼吸で箸をおく。 小さな升の中のコップ酒が溢れて緩やかな細長い波明かりを揺るがせる。口をすぼめて酒を口にするとえくぼが深くなる。上善如水。なめらかで優しい酒が喉を過ぎる。厳つくもなり優しくもなる髭の漢の逞しい体が、親父の皿と小鉢に丸くなっていく。部類の魚好き。酒に酔うのではなく、飯を食う店。いや、親父に身を任せる場所だ。 辰がやって来て久しい。郷が同じで親父は漁師あがりの板前。といっても5歳しか違わない。海釣りで知り合って深い中になった。荒い波で酔った辰がよろけて腰を強打し海に落ちそうなところを救われた。辰ではなく親父の方が運命だと思った。辰よりは引き締まった体で海焼けの肌色が黒い。照れくさく不器用な介抱が辰には分りすぎた。床から起きようとすればできたが、甘えて下の世話をお願いした。 締めの飯が済むと箸をおいて手を合わせる辰。 親父は店の行灯を消した。 (シングルマンさん、こういう二人がいる店好きでしょう?^^) SECRET SendDelete