Edit your comment きょうの画像から、昭和時代を背景にエピソードを創作してみました。 裕福ではない家庭に育ったけれど、就学前から始めた柔道と学業成績が優秀で奨学金が学生生活を支えた。寮生活は上下関係が厳しく、しかし、その規律が大会の成績に結びついていたので受け入れなければならない。6人部屋暮らしも4年目。面倒見のいい先輩がいたことで慣れたのだが、付き合いはそこまでではなかった。練習中に先輩の締め技が気道を圧迫して失神した。大事故にはならなかったが診察台で様子を見ていたのが先輩だった。先輩への服従は時間とともに変わっていった。 父親の急死で実家に帰った青年は、親族から縁談を持ち掛けられた。長男が家を継ぐのは当たり前、結婚して家族を作るのが当たり前、部落のために若者が頑張るのは当たり前。自分の今に気づいたとき、青年のこころに大きな波と振動が起きた。 卒業すれば商社の柔道部へ入部できる道があった。それが許されない家族の暮らしがある。ガラス戸を開いた向こう、トレリスに絡む黄色いツル薔薇が最後の一輪を付けている狭い庭。家族も親戚もしらない自分とは無関係に事が進められていく。これから先輩にどう告げればいいのか、言葉を探せない。触れる唇がこわばり、でも、鼓動は裂けるように打つ。いくつもの場面が駆け巡ってくる。帰れば今この時がもうないのだと思うと視界が閉ざされ不安に落とされる。拒まずに先輩とひとつになったら家に帰ることはなくなる。 先輩の手のひらは暖かく息遣いが優しい。音がない部屋に自分の鼓動だけが轟音のようだった。 SECRET SendDelete